大阪高等裁判所 昭和53年(行コ)44号 判決 1979年5月23日
控訴人 森井竹枝
被控訴人 京都府知事
代理人 辻井治 ほか六名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 控訴人は「1原判決を取消す。2被控訴人が控訴人に対し昭和五二年一〇月一日付でなした控訴人の老齢福祉年金の支給停止裁定を取消す。3訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。
二 当事者双方の事実上の陳述および証拠の関係は、原判決事実欄記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所は控訴人の本件請求は理由がないと判断するが、その理由は次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決理由欄記載のとおりであるからこれを引用する。
1 原判決第一〇丁裏五行目の「昭和五三年六月九日」とあるを「昭和五四年二月一六日」と、同第一二丁裏五行目の「五か月」とあるを「一年三か月」と各訂正し、同第一一丁裏七行目の「一一」の次に「、一二」を付加する。
2 同第一二丁裏一一行目の「各証拠」とある次に「甲第一号証の一二」を付加し、同第一三丁表五行目から六行目にかけて「(同法五八条)」とあるを「(但し昭和五二年八月以降、昭和五二年法律第四八号による改正後、昭和五三年法律第四六号による改正前の国民年金法五八条、昭和五二年七月までは二四万三六〇〇円)」と、同第一三丁表六行目から七行目にかけて「(同法七九条の二・四項)」とあるを「(但し昭和五二年八月以降、前同法七九条の二・四項、昭和五二年七月までは一六万二〇〇〇円)」と各訂正する。
3 同第一四丁表末行の「ともに受給権者の」とあるところから、同第一四丁裏二行目の「ある。」とあるところまでを「ともに受給権者の老齢又は廃疾という事由に起因する稼動能力ないし所得能力の喪失、低下に対し、所得の一部を保障する目的で一定の所得制限があるものの厳格な資産調査を行なうことなくなされる定額的給付である。」と訂正する。
4 同第一六丁裏一一行目の「このように」とあるところから、同第一八丁表四行目までを削除し、そのあとへ次のとおり付加する。
「従つて、障害福祉年金の受給を継続している控訴人については年金法二〇条の規定により併給が調整されて老齢福祉年金の支給が停止されるのに対し、控訴人が受給していた障害福祉年金と同額又はこれを越える額の戦争公務による公的年金を受給する者であつても、大尉又はこれに相当するもの以下にかかるものの受給者は、老齢福祉年金の受給資格を具備すれば老齢福祉年金の併給を受けることができるのであり、右両者の取扱いに差異があることは明らかである。
しかし、先に見たように、老齢福祉年金、障害福祉年金の趣旨が、いずれも基本である拠出制の国民年金制度を補完的、経過的に補い、保険金を拠出しない者に対しても、国庫の負担において老齢又は廃疾を要件として、生活保護のような厳格な資産調査によらず定額的な給付を行なつて所得の一部を保障することにより、未だ生活困窮の状態に立至つていない国民層の生活の安定をはかるところにあるのに対し、戦争公務による公的年金給付の趣旨が、軍の指令により酷烈な状況下で戦争遂行のための公務に従事し、それに起因して廃疾となり又は死亡した旧軍人、軍属等又はその遺族に対し、使用者又はこれに準ずる地位にあつたものとしての国が所得を保障するとともに精神的損害に対する補償を行なうところにあることを勘案すれば、障害福祉年金と戦争公務による公的年金との間にはその給付の性質に差異があることは否定できず、したがつて両者の間に設けられた前記取扱いの差異は事柄の性質に応じたそれなりの合理的理由によるものというべく、立法府に許容された裁量の範囲内にあるといわざるを得ない。
よつて控訴人に対する本件処分は憲法一四条一項に違反するものとはいえず、控訴人の主張は採用できない。」
二 よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 谷野英俊 乾達彦 西田美昭)